管理人の単なる脳内発散場所

毒きのこ荘

物語の種 - 朱鷺色

2010/02/28 (Sun) 18:09:27

世界には8つの大地が存在した。

灼熱の砂漠の大地
凍える雪原の大地
月光る常夜の大地

世界と呼ぶに等しい大地には呼び名は違えど必ず一本の大樹が存在するとされている。
なぜなら、大樹の在りか知る者たちはほとんど存在しないからだ。
しかし、冒険者たちは探し続ける。

ある者はより己の高みを目指すため
ある者は莫大な富を手に入れるため
ある者は絶対的な権力をを手にするため
ある者は不老不死の力を得るために

各々の理想と野望のために大樹を目指す。




そして今ここに3人の少年少女が大樹を目指して旅立とうとしていた。












木々が囲む森の中。
巨大な木が見える木造立ての小屋のその更に先には、人が3人顔を見合わせていた。
金髪と銀髪の少年とその二人よりほんの少しだけ背の低い、白髪の少年。
どうやら白髪の少年を見送っているところらしい。

「兄さんたちも、僕が居ないからって喧嘩ばかりしないで仲良くね」
「わかってるよ、そんなこと」

弟の言葉にプクッと金髪の少年は頬を膨らませる。
その言動のせいで実年齢よりも年下に見られているというのに……。下手をすれば末っ子と間違われていることを彼は知らない。
そんな思いを思中に残しながら銀髪の少年は口を開く。

「俺たちのことは構わず、しっかりと挨拶して来い」
「うん、それじゃあ行ってきます」

少年はニコリと綺麗な笑みを浮かべ、二人を背にして歩き出した。












「……本当に一人で行くのか?」

少女は木の幹の間から出てきたところで声をかけられた。
声のした方を向けば、木の幹にもたれかかり腕を組んでいる父親の姿を見つけた。

「……うん。だって、お父さんここから離れられないでしょ? なら、あたしが原因を調査してくるしかないじゃん」
「それはそうかも知れねぇが……」
「大丈夫だって、道だって判ってんだし!!」

不安を残すような父親の声に根拠のない自信で胸を張る少女。
事実不安はそれだけではない。

「恵風と清廉の大地だけはな。しかも、朧にしか覚えてないだろ」

気づいたときには頭の中で思っていたことがスルリと口からこぼれていった。

「うっ……。で、でも、あの二人のどっちかに聞けば原因判りそうじゃん!!」

このお気楽思考はいったい誰の遺伝なのやら。
そんなことを思いながら考えるのは同じ仕事をしている同僚のことだった。

「確かに、人里に多少近い分俺たちよりは状況に詳しいか……。でも気をつけろよ。手が付けられないと思ったときはすぐさま戻って来い。俺も多少は原因を探っておいてやる」
「うん。それじゃいってきまーす」

父親の助言を頭に入れると少女は大きく手を振りながら、森の中へへ駆け出していった。












少女は玄関先で掃除をしていたお年寄りのすぐそばで立ち止まる。
少女が傍に来たことに気づくと作業を止め、少女の姿を、目を見た。

「もう行くのかい?」
「はい、お婆様」

朝の姿を見た時は、まさか今日が旅立ちの日だとは微塵にも思っていなかった。
いつものように朝ごはんを食べ、村の学校へ行き、帰ってきてから仕事を手伝い、共に夕食を食べ、眠る。
その繰り返し。
なんの変わり栄えのない日常が、年寄りには幸福の時であった。

「何処にあるかもわからない大樹を探すなんて……」
「……大樹を見つけ祈りを捧げるのが、私の勤めです。それが村のために、世界のためになるのならその使命を全うするだけです」

老人が不安を口にしても、その瞳から決意の揺らぎは感じられなかった。
判っていたことだ。
6年前大樹に祈りを捧げるべき巫女が病に倒れ亡くなった。
村人は新たな信託を待ったが一向に現れる気配はなかった。
そして15歳の誕生日、少女に信託は下った。
16になると大樹に祈りを捧げるため旅立つのだと。
正義感の人一倍強い彼女は信託を受け入れこの日を迎える。

「……そうかい、いや、そうだったねぇ。あんたは一度決めたらそう簡単に折れちゃくれないものねぇ」
「それが私です、お婆様」
「それじゃあ気を付けて行っておいで。早く勤めを終わらせて、この年寄りに元気な顔をもう一度見せておくれ」
「…………はい。……では、行って来ます」

少女はしばらく目を閉じてから深々とお辞儀をすると、住みなれた家からゆっくりと離れていった。




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